てっぺん移住

餅Cafe&Stay わが家
飲食店経営 堂脇聖美さん(38歳)

北海道旭川市出身。長年患っていたアトピー性皮膚炎の湯治治療に専念するため、温泉のある豊富町に2009年に移住。湯治客が気軽に集まれるコミュニティスペースを実現したカフェを経営する。現在、夫は単身赴任中で、実父、長男との3人暮らし。

苦痛と苦悩から抜け出すために


2011年に豊富町にオープンした「餅Cafe&Stay わが家」。北海道で穫れた安全な食材を使用し、おしるこやお雑煮、生キャラメル餅などのお餅メニューを中心に揃えている。子どもが遊べるキッズルームやおむつ替え用のベッドがある、一風変わったカフェだ。高校生から中高年、サラリーマンや親子連れと客層は様々。自分の時間を過ごすための空間を提供するカフェとは違う。お客同士が交流を楽しむ、まさに「わが家」のようなコミュニティスペースになっている。人との距離感が近い、そんな店造りをしたのは、店主の堂脇聖美さん。実は豊富町での湯治と育児の経験が、そのまま店造りに活かされている。

豊富町に移住したのは2009年2月。「移住するしか、選択肢はありませんでした」と追いつめられた心境から抜け出したい切迫感がそうさせた。

生まれつきのアレルギー体質でアトピー性皮膚炎を患い、幼少の頃から治療を続けてきた。出産した頃が症状の悪化のピークで、炎症からくる全身の痛みと痒みで思うままに生活ができない。周りの助けを借りないと日常生活ができないもどかしさ。薬の治療にも限界があることを知り、この最悪な状態がいつまでも続くのかと思うと、先の事を考えられず絶望だけが残った。「とにかく、身体がよくならないと仕事をすることも、育児もできないと思いました」と当時の厳しい心の内を振り返る。

希望の手がかりをたぐっていったとき、豊富町への移住しかないと思った。以前に、皮膚病に効能があるとされる豊富温泉で湯治した時、症状が確実に改善した事実があって、どの治療よりも効果があることを知っていた。アトピーを全快させて未来のある生活を得るために、住まいを旭川市から豊富町に移したのだった。

「痛み」を、「癒し」に

湯治の効果は、はっきりと現れた。痛々しい傷だらけだった肌は、あたかも生まれ変わったかのようだった。医学的な根拠は解明されていないが、「豊富温泉特有のどろどろしたお湯が肌をコーティングして、皮膚の再生を手助けしている感じ」なのだという。

治療と育児を同時にこなすと、ストレスを感じたり、行き詰まったりする瞬間が度々訪れる。見ず知らずの土地だと、なおさら不安感もつきまとう。その時の気持ちが、「わが家」の原点だ。

「湯治で豊富町を訪れる親子をサポートしたい」と笑顔で語る。子どもが笑って過ごせる安全な場所。お母さんが毎日の気苦労をひとときの間だけでも忘れて、リフレッシュできる場所。湯治客はもとより、町民の新たなコミュニティスペースになっているこのアットホームな空間は、堂脇さんの人柄によって作られたもの。「ゆくゆくは保育士を完備させて、子どもだけでも湯治滞在できるようにしたい」。病気で苦しむ親子の側にいつも寄り添っている。

身体と心に刻んでいた痛みは、同じ苦しみを持つ人々を癒すためのものになった。闘病や移住のいきさつを公表したブログで、今の思いをこう綴っている。「私は笑顔や笑い声が大好きです。わが家に行くと何だかいつも笑って帰ってくるなーって、これからもそんなわが家で居続けたいです」。
身体と心に刻んでいた痛みは、同じ苦しみを持つ人々を癒すためのものになっている。


◇餅Cafe&Stay わが家ホームページ

http://www12.plala.or.jp/cafewagaya/

◇堂脇聖美さんブログ

http://ameblo.jp/satomatto/