てっぺん移住

黄金湯
渡辺由起子さん(57歳)

札幌市中央区出身。市立札幌病院精神科を振り出しに看護師・保健師として医療、保健、福祉の分野で幅広い経験を積む。長年の課題だったソーシャル・ファーム(※)の実現を模索する中、中頓別町の公衆浴場「黄金湯」との出会いがきっかけになり、平成22年10月に中頓別町に単身で移住。半年の仮オープンを経て平成24年4月、「黄金湯」を本格オープンさせた。

※ソーシャルファーム:障がい者または労働市場で著しく不利な立場にある人々のための雇用創出のためのビジネス。

小さな町の熱心な人たちに感動、公衆浴場が売りに出されていたのを機会に移住を決意

平成20年3月に中頓別町で東京から講師を招いてソーシャル・ファームの勉強会があった。そのとき、初めて中頓別町を訪れた。「小さな町なのに吹雪の中、札幌でもこんなには集まらないだろうというくらい、たくさんの人が集まって、熱心にソーシャル・ファームの話を聞いている。感動しました。中頓別ってどんな町?気になって、それから町のホームページをチェックしていました」。

そんなある日、町の公衆浴場「黄金湯」が売りに出されていた。「町のどこにあるのだろう。どんな建物なのだろう。見てみたい」。すぐに中頓別町を訪れた。建物はしっかりした造りで、町の中心部にあった。
「公衆浴場は昔から身近な地域の交流の場で、入浴だけでなく話をしたい人も来ます。黄金湯なら…みんなが集まって何かができるかもしれない」。夢が広がった。

平成22年6月、たまたま目にした内閣府の「地域社会雇用創造事業」の起業プランコンペに応募、プランが採択され黄金湯の再開業を決意した。

出会った人に恵まれ“人”という大きな財産をいただいています



平成23年10月の仮オープンを経て、平成24年4月に本格オープンしてからは1日に25人前後の入浴客が訪れるという。「高齢者は入浴時の事故の確率が高く、特に一人暮らしの方は発見が遅れやすく危険です。でも公衆浴場なら一緒に入浴する人が見守り異変が起きてもすぐに対応できます」と保健師としての役割も負う。子供たちの希望があれば絵本の読み聞かせもする。

11月からは燃料を灯油から薪に変えた。山で材木をつくるときに放置される木の切れ端や家屋解体時の廃材などをたくさんもらい、夏の間に10人以上の有志がボランティアで燃料となる薪をつくってくれた。「薪で沸かしたお湯は柔らかくて冷めにくい。体にも環境にもやさしいんですよ」。一方で燃料が薪に変わることにより、“薪を運ぶ” “薪を焚く” “灰を処理する”など手作業の仕事が増える。「近くにある福祉事業所の就労実習の受け入れが出来るようになれば良いのですが…」というが、これが今後の課題であり、ソーシャル・ファームへの第一歩になるかもしれない。

近い将来取り組んでみたいと思っていることがある。カボチャやトウモロコシ、ジャガイモなど地元の食材を使った栄養たっぷりのスープを、一日一品だけ「今日はこれ!」と決めて、限定20~30食を車で移動販売すること。「赤ちゃんからお年寄りまでみんなが喜ぶ、具のいっぱい入っている“命を支えるスープ”です」。温めてきたアイデアはこの町で実現させたいと思っている。

札幌では中央区に住んでいたが、生活するには今の方が便利だと言う。「郵便局も、銀行も、スーパーも、なんでもすぐ近くにあります。町の人も親切で困ったことがあると気軽に声をかけてくれます」。黄金湯の再開を通して多くの人との出会いがあり、深い付き合いのできる “人”という財産をいただいていると気持ちを込める。「儲かるってお金じゃなくこういうことかなぁ~って思います」。町と人と、これまで出会った多くの人々が、充実した日々を支えてくれている。


◇黄金湯ホームページ

http://koganeyu-nakaton.com